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大阪地方裁判所 平成元年(ワ)9469号 判決

主文

一  本件訴えのうち相続持分権を有しないことの確認を求める部分を却下する。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、原告らに対し、相続財産目録記載の各財産(以下「相続財産」という。)について相続持分権を有しないことを確認する。

二  被告は、原告らに対し、物件目録記載の各物件を引き渡せ。

第二  事案の概要

一  争いのない事実

武市政治郎(以下「政治郎」という。)は、平成元年四月二四日死亡し、その妻である被告、政治郎とその先妻ハナとの間の長男原告武市峰次及び長女原告伊川光代が同人を相続したが、いまだ遺産分割はされていない。

二  争点

原告らは、被告が政治郎から受けた遺贈及び生計の資本としての贈与(特別受益財産目録記載の各物件)の価額は民法九〇三条一項に基づき算定される被告の相続分を超えているから、同条二項によりその相続分を受けることができないと主張し、被告の具体的相続分がないことを明確にするため、相続財産について相続持分権を有しないことの確認及び相続財産のうち被告が所持する物件目録記載の各物件の引渡しを求めた。

被告は、本件訴えは具体的相続分の不存在確認の訴え及びこれを前提として相続財産の引渡しを求める訴えであり、いずれも遺産分割裁判所において審理判断されるべきものであるから不適法である、と主張して、訴えの却下を求めた。

第三  争点に対する判断

一  相続持分権を有しないことの確認の訴え(請求一)について

民法九〇三条一項は、共同相続人中に、被相続人から遺贈又は婚姻、養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与(特別受益)を受けた者があるときは、被相続人が相続開始時に有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、法定相続分又は指定相続分から特別受益の価額を控除してその者の相続分を算定すべきことを定め、また、同法九〇四条の二第一項は、共同相続人中に、被相続人の財産の維持又は増加につき特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始時に有した財産の価額から寄与分を控除したものを相続財産とみなし、法定相続分又は指定相続分に寄与分を加えてその者の相続分を算定すべきことを定め、この寄与分については、共同相続人の協議によって定まらないときは、遺産分割審判と同時にされる家庭裁判所の審判によって定めることとされている。このような特別受益の持戻しあるいは寄与分による法定相続分又は指定相続分の修正は、遺産分割手続の一環として行われるものであって、その結果算出されるいわゆる具体的相続分は、遺産分割における分配基準としての割合にすぎず、遺産分割の過程においてのみ機能する観念的性質のものであって、遺産分割前の段階で具体的相続分(あるいはこれに基づく共有持分)が独立に処分の対象となるなどこれについて具体的な権利義務関係が成立する余地はないというべきである。

したがって、相続財産を構成する個々の財産に対する具体的相続分に基づく共有持分の有無を確認の訴えの対象とすることは許されないというべきであるから、本件訴えのうち請求一に関する部分は不適法である。

二  相続財産の引渡請求(請求二)について

本件においてはいまだ遺産分割がされていないので、原告ら及び被告は、政治郎の相続財産についてそれぞれ法定相続分の割合による共有持分を有しているにすぎず、原告らは、共同相続人である被告に対して、当然には、その占有する相続財産の引渡しを請求し得るものではない。

(裁判長裁判官 島田禮介 裁判官 吉川愼一 裁判官 下村眞美)

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